ドイツ報告-09 グリュンバルトで現地現物教育の現場を見る
ドイツロッテンブルク林業大学と岐阜県立森林文化アカデミーが連携協定を組んでいることも関係して、参加した第一回日独林業シンポジウム、それに合わせて勉強に出かけた数々の訪問地紹介も最後になりました。
今回はミュンヘン郊外にあるグリュンバルトで、森林内に設置された環境教育施設で、現地現物主義に則った内容を見学したので紹介します。
ここはドイツの富裕層には有名な森林環境教育施設で、利用は無料です。ミュンヘンの中心部からも近いこともあって、週末は家族連れが多く訪れます。今回は2.8km(約90分)のコースの一部を紹介します。
ここがGrünwaldの入り口、訪問者は全員が車を降りて、ここから奥へは一切のモーターサイクル禁止です。
しかし、上の写真の赤い車の左側、樹木の根元にある小さな看板と、二股のところに伸びている赤いホースが気になりませんか?
そこをアップしたのが下の写真です。ガソリンホースと給油口です。
つまりホースの左先はどこから来るか? そう樹冠で光合成した栄養分が来ることを示しているのです。それが駐車場の横にあるから、訪問者はそこから考え始める。
この日も少し前まで雨が降っていましたが、このサインを横に見ながら、家族連れが次から次と歩いて出かけます。
道路はどこへ行っても未舗装で、必ずベビーカーも簡単に通れるようになっています。下の写真の少年は、すぐさま棒を拾っていました。どこの国の子も同じです。
私が説明看板を見ている間に、もう二組の親子連れが行きました。二組目は、お父さんがお子さんを三人つれて歩いていきました。
どの子供たちも、こうした自然にふれあい、延々歩くことを気にしていない様子で、ここから最初のお楽しみポイントまで約300mほどだったと思います。
車を降りて、最初のチェックポイントがありました。
このきのこ型のものは、プッシュボタン型の金庫になっています。ここの説明では、「森林内に設置されたきのこの質問の回答番号を7つ記録して、ここで押せば、扉が開く」と書いてあり、そのコースガイドはこの先に置いてあるパンフレットに記してあるとなっていました。
つまり、入り口で、周回路を散策する楽しみを、しっかり演出しています。
パンフレットがある場所まで来ると、パンフレットよりも面白い光景を見つけ、写真撮影しました。
幼稚園くらいのお子さんがお母さんと一緒に、楽しそうに水遊びしていると思いきや、なんとこれは「水の土壌による濾過機能を体験させる」施設で、遊んでいたのです。
難しい解説なんか不要なんです。つまり遊びながら、お子さんも、お母さんも自分で土壌の濾過機能に気づく。
つまり、自然に気付かせる仕組み。どこかの解説大好きな国の仕組みとは全く違います。
やはり見せ方、考えさせ方が違います。
それと余談ですが、この少年が被っているヘルメット、なんと防面マスクまでついたものでした。
いくつかのポイントを越えた時、「EICHE」とドイツ語で書かれた看板があり、その横に東屋と、倒れた樹木がありました。
EICHEとはナラのことです。
つまり、ここで倒してあるナラの木は、どこが虫の被害で、どこが菌類による傷で、これがどのような経緯でここにあるのかをしっかり解説してあります。
訪問者が学びたければ学び、そうでなければ、切り株に乗って自由に遊ぶ。
そう学び方にスタイルがあるわけではない。自由でいいのです。
また少し歩くと、このような棒があり、木口面に数字が記入してあります。岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアムメンバーの伊藤さんが写っている後ろの丸太は、ログハウスを組み立てるように組み合わせの溝(ノッチ)があり、同じ番号同士を同じように配列すると、何か建物ができあがる。
設計図も説明も何もない。ただある説明は、「自由に使って遊び、遊び終わったら片付ける」それだけ。
さて、きのこの看板もいくつかありましたが、それをやり過ごして行くと、石積みの看板と石積み、そして左手奥の小屋があります。
石積みは、こうした空間があることで多くの生き物が生活していることを説明しており、奥の小屋の中でその昆虫や動物について自分で学ぶことを誘導しています。
小屋に向かうと、先ほどまで着ていたろうレインスーツ(合羽)が入り口前に脱ぎ並べられていました。中には少なくても5人の子どもがいることを確認しつつ、小屋内部に進入です。
いました。いました。子どもたちが顕微鏡を奪い合うように接眼レンズに釘付けです。
「日本で自主的にこれほど熱心に顕微鏡を覗く子どもを見たことがない。」と思えるほど、必死に何かを探しています。
顕微鏡が4台ほどありますが、順番待ち状態です。この部屋の中にはセイヨウミツバチの巣内部が観察できたり、野鳥について学べたりするものが並んでおり、各自が自由に触れながら学べるようになっています。
小屋からだいぶ進んだところにあった東屋と歩道の施設。これは説明看板を読むまで、何のことか理解できませんでした。
この東屋からスタートして、林内を一周してくるだけのですが、その「歩道」に仕掛けがあります。
入り口左の看板には、キツネになったつもりで考える。 つまり自然界の動物は肉球など「裸足」で歩いている。 ドイツ語で「Tast Pfad」とあるのは「手探り小径」という意味です。
だから人も、裸足になって目かくして、ここを歩いて見て下さい。何かを感じたらしっかり見て下さい。と記されています。
歩き易かったり、痛かったり、気持ち悪かったり、そうした感覚を普段は味わっていない。
コースに反時計回りではいると、最初はコンクリートの路面、少し暖かい。次いで小石をコンクリートで固定した足つぼマッサージ状態の路面、などと3~5m間隔で変化していきます。
下の写真で学生(森田さん)がいる場所は、ドイツトウヒの球果が敷き詰められた場所です。これは気持ちよいような、悪いような不思議な感覚でした。
この球果の手前は地衣類、つまり苔(コケ)が敷かれ、球果の次は砂利、そして森林土壌と続き、晴れていればどれが気持ちよいのか。雨でも気持ちよいのはどれか。いつも気持ちよいのはどれか、それを動物の目線で、自分の足の裏感覚で感じ取るのです。なるほどと思いませんか?
さて、冒頭でお話しした「きのこの問題」その5番目です。
ドイツ語で「Was ist ein Pilz ?」、「きのこは何?」と聞いています。
下の回答事例は 菌類なら(1)、果物なら(8)、動物なら(2)となっています。
またしばらく歩くと、今度は木材と有刺鉄線で囲われた樹木の苗木と立て看板、そして看板には成長点らしきところに赤きマークが、これはシカの食害避けかと思いませんか?
なんと、イノシシ避けでした。そう言えば、ここは周囲に囲いがあるエリアもあり、先ほどの苗木はその囲いの中のものでした。
イノシシは場所によって20頭ほどの集団でいる場所もあり、地面が相当掘り荒らされていました。
イノシシを見学して、しばらく歩いて行くと、今度は葉の一年の移り変わりと、落葉が土壌に及ぼす影響を展示してありました。
下の写真で右手奥の丸太の囲いには落ち葉がたくさん入っており、その中には土壌昆虫や微生物もたくさんいます。そしてそれらに分解された落葉層が土壌に栄養を与えることを学ぶのです。この枠の大きさは1m×1mの大きさです。
落ち葉の集積場所の右側には、そこに生えていた立木を利用した抽斗(ひきだし)式解説がありました。
小さな子どもが見やすいように、切り株が用意され、誰もが同じ目線で勉強できるようになっています。
抽斗(ひきだし)式解説の中には、下の写真のように、どの季節に来ても葉の変化が分かるように絵で示されています。
日本には無いような大胆な展示にびっくりです。
その解説板の右側に、さらに土壌断面がありました。この断面の大きさも縦横が1m×1mの大きさで、落葉がたまっていた枠と同じ大きさになっています。
そしてこの土壌が自然の力で、どのように形成されたかを現物で学べるようになっているのです。
ましばらく行くと、金網越しに中を覗いているお子さんと、それを後ろから見守るご夫婦に遭遇しました。日本と少し違うのは、日本であれば親が子どもに寄り添って、子どもが聞きもしないのに一生懸命に説明するのに、このご夫婦は子どもが聞いてきたときのみ、答えていました。
つまり、子どもが自分の判断で何かを疑問に思い、それについて答える。・・・なるほどと感じます。
少女の目線の先にはイノシシが寝ているのですが、お分かりになりますか?
なんと、寝ているのはメス親のイノシシと子イノシシです。雨の後の日向ぼっこで眠くなったのでしょうが、人が見ている前で堂々と寝ています。
さて、そろそろ帰着点に近づくと、お父さんと2人の娘さんが苔の生えた場所を棒で突いて、何かを探しています。
Grünwaldではこうした光景が至るところ見られますが、日本の施設と異なり、作りっぱなしで放置されているのではなく、しっかりメンテナンスされて長期に利用されている点も評価できます。
さて、最初に説明したきのこの金庫ですが、残念なことにどこかで設問を一つ見つけられずに一周してきたため、結局開けることができませんでした。誰か挑戦された方、中身を教えて下さい。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。